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わたしの事業承継物語②

前回に引き続き、私の事業承継のお話をいたします。

前述の通り、急な事情で会社を引き継ぐ決断をしました。

しかし決意はしたのは、会社の内容の良し悪しで決めたわけでもありません。

義理人情に満ちた浪花節的な決断だったので、会社の決算書すら見ていませんでした。

年間売上額や必要経費はどれくらいかかっているのか?

借入はいくらあるのか?

まったく何も知らぬままの転職です。

まあ、なんとかなるだろう。

ダメならなんとかすればいいのだから。

生来の楽観的な性格に背中を押されました。

突然現れた新入社員

そして、初出社。

社員たちに対しては、義父から私が入社する旨の話が事前にしてあるものだと勝手に思っていました。

ところが、どうもそんな雰囲気ではありません。

こちらから挨拶をしてもキョトンとしていて、ヘコっと頭を下げるだけ。

きっとそのうち社員たちに紹介をしてくれるのだろう、と待っていても、義父はいっこうに動きません。

現場の社員同士で、「あいつ誰?」とコソコソ話をしています。

私が最年少ということもありますが、敬語も使ってきません。

その後も、私がどんな立場の何者なのかも知らされないまま、毎日が過ぎていきました。

単純作業の毎日

私の業務は、義母が行っていた事務および経理処理です。

…ちょっとカッコよく言い過ぎました。

現場作業代金の集金と自賠責保険の発行だけです。

正直言って、誰にでもできる簡単な仕事です。

永年にわたり培ってきた経験やキャリアも必要ありません。

しかし従業員による長期間の横領事件が発覚したばかりだったので、

やはり現金は経営側が管理しなければダメだ、ということで金庫番を任されていました。

単調な仕事で、よく言えばラクチン、悪く言えばめちゃくちゃ退屈です。

あまりの単純作業の連続に、もっと違うやり方があるんじゃないか?

といつも悶々としていました。

どうしても気になる、おかしな日常

入社初日から感じていた、違和感。

業務に慣れてくると、会社の雰囲気に気になることが、ますます目に付いてきます。

社員が来店客に挨拶をしない、

そして敬語を使わない、

作業現場でタバコを吸う、

ヌードカレンダーが貼ってある、

などなど。

大手企業に勤めてきた私にとって、今までの常識では考えられないことばかりです。

「変革事項」というタイトルで手帳に書き込み始めたら、すぐにびっしりと埋まってしまいました。

いつか社員たちへ行動を改めるように伝えようと、これまた悶々としていたものです。

挨拶ができない社員たち

たまに前職時代の後輩たちが、お客さんを紹介するために来店してくれました。

その際にも社員たちは初対面のお客さんに対して、挨拶をしないどころか

「誰だ?おめーは。」

という目で見てしまいます。

来店する顧客のほぼすべてが常連客だけなので、一見客には警戒をするクセがついているのです。

後輩に、

「松葉さんちのスタッフ、みんな怖いっすね」

とまで言わせてしまう始末。

しかし、社長である義父に社員たちの振る舞いを改めるよう進言しても、

何も注意しません。

だからと言って、最近入ったばかりの若造がギャーギャー言ったところで、素直に聞いてくれるとも思えません。

悔しいけど、モノを言える立場になるまでは静観しよう、とグッと堪えていました。

自分の常識が崩された瞬間

私からすれば問題だらけの現場なのに、なんでお客さんたちは毎日のように通ってくれるのだろう?

その疑問は増すばかりです。

ある日、何十年も通ってくれている常連客のひとりに質問をしました。

「私からすると直したいところがたくさんあるんですけど、どうしていつもウチを使ってくれるんですか?」と。

すると、このように教えてくれました。

「言葉遣いや態度が気になることもあるけど、どんなにボロいクルマでも、いつも何とかして車検に受からせてくれるからね。」

それを聞いて、はっ!と気付かされました。

来店されるお客さんが何を求めて、どんなことに価値を感じてお金を払ってくれているのか。

顧客のニーズを満たし、その期待と予想を上回るサービスを提供する。

それが商売の原点です。

あそこへ行けば、何とかなる。

お客さんはそれだけを求めて通ってくださるんだ。

自分が正そうと思っていた方向性と価値観が崩された出来事でした。

新しい経営方針の見直し

それ以降、それまでとは違う方向で経営方針を考えるようになりました。

顧客の取捨選択、誰を大切にしていくのか。

これから確実に先細りしていく業界なので、新しい顧客の開拓が必要だと考えていた私。

そのためには幅広いお客様から支持を頂けるよう、然るべきマナーを身に付けて新規顧客への対応ができるように教育をし直そうと。

しかしそうではなく、範囲は狭いが深く熱狂的なファンに対して、継続的に喜んでいただけるサービスを提供し続ける方が繁栄は続くだろう、と考え方を変えました。

そう考えると一般的には非常識な、客への友達口調だったり、客と一緒に現場でタバコを吸ったり、作業現場に貼ってあるヌードカレンダーにも意味があったりするのだな、と思うようになりました。

従来を踏襲した新社長

その後も変わらず、義父は今後の体制や私の在り方について、社員たちへ伝えることはありませんでした。

やがて一年が経ち、もうすべてを任せるからと言って、義父は会社へ来なくなりました。

役員の変更手続きをし、登記上でも代表取締役に就任しました。

そして社員を集め、私が社長に就任したことの報告と今後の方針について、こう話しました。

「社長は変わるけど、これまでのやり方を続けていく。

あなたたちは今まで通り、お客さんが喜ぶこと、そして自分たちが働きやすい環境のことだけ考えて働いて欲しい。

仕事の進め方に関して、私は口を出さない。

自分たちで考えてやってくれ。

その代わり、何かあった時の責任は全部私が負う。

それが私の存在意義だ。」

と。

このように、なんとなく徐々に時間に任せての社長交代。

取り立ててドラマチックなこともありませんでしたが、これが弊社の事業承継でした。

会社を譲るあなたへ

この経験から、後継者として思うこと。

もしこれを読んでいるあなたが、会社を譲る立場なのだとしたら、こう伝えたいです。

「後継者に任せるのはまだ早い」なんて思わないで。

立場が人を作りますから。

後継者は日々考え悩み、挑戦と失敗を繰り返して、だんだんと成長をしていきます。

きっと義父も、私に言いたいことが山のようにあったことでしょう。

私たちは義父と娘婿という関係だったせいか、言いたいことを言って衝突することは一度もありませんでした。

でもこれが実の親子だったら、つい親が口を出してしまいがちです。

きっと後継者も覚悟を持って事業に臨んでいるはずです。

どうぞ信頼をして、任せてあげて下さい。

後継者のあなたへ

そして、もしこれを読んでいるあなたが、これから事業を引き継ぐ、または引き継いだばかりだったとしたら、こうお伝えしたいです。

「頭ごなしに先代のやり方を否定しないで」と。

このやり方は今の時代に合わない、とか

先代の考え方はもう古い、とかを理由に、

後継者は、とかく変化を求める傾向があります。

でもお得意様や従業員や取引銀行は、先代の人柄や、先代のやり方を気に入って付いてきているのです。

時間をかけて、だんだんとあなたの色を出していけばいいでしょう。

焦らずとも必ず時が味方となって、自然な変化を促してくれるはずです。

何でも話せる相談相手

いかがでしたか?

小さな小さな会社の事業承継物語でした。

こんな経験をもつ私ですので、自営業者の気持ちはとてもよく分かります。

よく「経営者は孤独」と言われます。

会社の資金繰りや経営不安についてなど、顧客や従業員、ましてや取引銀行や家族にも言えません。

また顧客や従業員に対する愚痴や不平不満なんて、当事者や関係者に聞かれたら大変なことです。

悩み事って、他人にしゃべるだけですっきりする、

ってことありますよね?

私は職務上、守秘義務を守ります。

聞いたことは、誰にもしゃべりません。

経営者のあなた、どうぞなんでも私にお話してください。

きっとスッキリしますよ。

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